別に狙って買いに行ったわけではない。
ただ、今日はなんとなく「刺し身の口」だった。
スーパーをぶらぶらしていると、
刺し身コーナーで事件が起きた。
店員さんが、
私の目の前で半額シールを貼り始めたのである。
……来た。
これは来た。
貼られた瞬間、
さっきまで「うーん」と悩んでいた刺し身が
急にこう言い出す。
「今だぞ」
「今日の主役は私だぞ」と。
気がつけば、
立派な刺し身盛り合わせを手にしてレジへ向かっていた。
人間とは、かくも単純な生き物である。
しかし、ふと冷静になる。
これだけの刺し身、
本音を言えばスーパー側も
半額なんかで売りたくないはずだ。
じゃあ、なぜ半額になるのか?
・売れ残りを防ぐためか
・廃棄は絶対に避けたいからか
・それとも
「どうせなら半額目当ての客を呼び込もう」
という高度な戦略なのか。
……どっちなんだろう?
たぶん、答えはこうだ。
どっちも。
本当は定価で売り切りたい。
でも残るくらいなら半額。
半額にするなら、
どうせなら人を集めたい。
その結果、
刺し身コーナーには今日も
「運命の半額タイム」が生まれる。
そして私は、
その瞬間にたまたま居合わせただけの男。
ラッキーと言えばラッキーだが、
よく考えると
スーパー側の必死な努力の上に成り立つ幸運でもある。
そう思うと、
半額シールが
ただの値引きシールには見えなくなってくる。
あれは
「今日中に食べてくれる人、ありがとう」
という、無言のメッセージなのかもしれない。
…などと、
刺し身をつまみながら
少し哲学的になった夜。
半額の刺し身、
恐るべし。


