まぜそば。 あの色とりどりの具材が整然と並んだ美しい姿。 それが、混ぜることでぐちゃぐちゃに崩れていく—— その瞬間がどうしても苦手だった。
最初に目の前に現れた美しさを、自分の手で壊してしまうような行為。 なんだか儚くて、少しだけ罪悪感を覚える。
思えば私は、見た目がシンプルな伊勢うどんが好きだ。 混ぜても表情が変わらず、心を乱されることがない。 だからこそ、まぜそばの「壊す美」にはずっと距離を置いてきた。
けれど昨日。 職場近くのラーメン屋さんで、なぜだか心が動いた。 「今日はまぜそばにしてみよう」と。 自分でも不思議だった。
——そして、運ばれてきた一杯。
やっぱり、きれいだった。 チャーシュー、メンマ、青ネギ、ナルト。 その整然とした姿に、ふと「混ぜたくないな」と思ってしまう。
けれど、意を決して混ぜてみた。 レンゲで底からタレをすくい、麺を絡める。 ああ、やっぱり崩れてしまった。 でも、それでも。
美味しかった。 とんでもなく、美味しかった。
壊したことが、こんなにも報われる味があるのか。
あの美しいファーストインパクトを自ら破壊した罪が、 一口ごとに洗い流されていくような、そんな食後感。
“まぜそばは苦手”という思い込みが、 昨日のお昼過ぎ、静かに吹き飛んだ。
偏見が溶けて、心がすこし軽くなった気がした。