雲が垂れこめ、波は静かに打ち寄せている。 風はまだ冷たく、夏のざわめきは遠い。 今の浜の宮の海は、どこかぽっかりと空白を抱えている。
ふと思った。 この風景はまるで、 まだおかずが詰められる前の―― 空っぽの幕の内弁当の器のようだ、と。
ごはんがよそわれ、 そこに少しずつ、色とりどりの煮物や焼き魚、玉子焼きが並べられていく。 そんなお弁当の“始まる前”の静けさが、 この海にはある。
もうすぐ、ここに人が集まり、笑い声が響き、 色とりどりの季節が盛りつけられていく。 まるで、夏の本番に向けて おかずが次々と詰まっていくように。
でも今はまだ、 ひとつも手をつけられていない器。 何もないことが、 こんなにも美しいなんて――。
今日も花むらでは、 そんな「静けさの味」を詰めこんだ お弁当をこしらえています。