夕餉のべこ鍋の熱もやわらぎし宵、 君が黙って運びしは、ひと皿の水羊羹。
「赤飯の小豆で作ったの。おはぎにして、それが最後、この子になったのよ」
と、いつものように、静かに微笑んだ。
君の手は、時に熱く、時に冷たく、 けれど、いつだって何かを“次へ”と運んでゆく。
赤飯のぬくもりを、おはぎのやさしさに、
そして今宵、水羊羹という涼やかな記憶へと変えて。
君の手は、不思議だ。 食材にも、暮らしにも、季節にも、 そして――僕の心にも、そっと触れて、何かを生まれ変わらせてくれる。
君が点てた茶の香りは、どこか遠い春のようで、 一口ふくめば、君の鼓動がすぐそばにあるような気がする。
僕は、もしかしたら、 この水羊羹の小豆のやうなものなのかもしれない。 ひとつの形にとどまらず、 君の手に委ねて、やわらかく変わっていく。
それが、幸せというものなのだらう。
ねえ―― 君が今日、この羊羹をつくってくれた理由を、 僕は聞かない。
ただ、静かに微笑んで、「いただきます」とだけ、言う。

