「昔はよかった」は本当か?2026年夏、米は下がったのに豚肉・牛肉・弁当容器はさらに高騰

夏休みが、もうすぐ終わろうとしています。

もちろん、今の私には夏休みなんてものはありません。

むしろ夏は、お盆だ、暑さ対策だ、食中毒対策だと、弁当屋にとってはなかなか忙しい季節です。

それでもこの時期になると、どういうわけか毎年、少しだけ少年時代を思い出します。

朝から蝉が鳴いていて。

昼までゴロゴロして。

友達と遊びに行って。

冷たい麦茶を飲んで。

「宿題やったの?」

と聞かれても、

「あとでやる」

と答える。

そして8月の終わりになって、その「あとで」がまとめて襲ってくる。

ああ。

夏休みって、よかったなあ。

一か月以上も休めるなんて、今となっては夢のようです。

そんなことを考えていて、ふと、ある言葉を思い出しました。

アメリカの演劇評論家、ブルックス・アトキンソンという人がいます。

彼は1951年に、

「古き良き時代というものは、いつの時代にも神話だった」

という趣旨の言葉を残しています。

つまり、その時代を生きている真っ最中の人たちは、別に

「いやあ、なんて素晴らしい時代なんだ」

と思いながら暮らしていたわけではない。

その時代にはその時代の苦労があり、

「最近は大変だ」

「これからどうなるんだ」

と思いながら生きていた。

それが何十年か経つと、不思議なもので、嫌だったことは少しずつ薄れて、楽しかった記憶のほうが残っていく。

なるほど。

まさしく今、夏休みを懐かしんでいた現在の私のことである。

子どもの頃だって、毎日楽しかったわけではありません。

学校に行きたくない日もあった。

テストもあった。

先生に怒られたこともあった。

そして夏休みの最後には、手つかずの宿題という、この世の終わりのような現実が待っていました。

それなのに何十年か経つと、

蝉の声と青い空と麦茶だけが残って、

「あの頃はよかったなあ」

となる。

人間の記憶というのは、なかなか都合よくできています。

そして最近。

長年、弁当屋をやっている私も、まったく同じことを考えていました。

仕入れ価格を見ながら、

「数年前はよかったなあ……」

と。

今年の夏も終わろうとしていますので、少し食材の値段のご報告を。

まず、お米。

一年前と比べると、仕入れ価格はずいぶん安くなりました。

これは本当にありがたい。

鶏肉も、今年の初め頃には目を疑うほど高騰していました。

「鶏肉って、こんな高級食材だったっけ?」

と思ったほどですが、今はかなり落ち着いてきました。

ところが。

豚肉。

牛肉。

その他の食材。

そして容器。

こちらは、まだまだ上がり続けています。

特に最近の容器代。

上がり幅が、なかなかエグい。

弁当屋ですから、当然ながら弁当を入れる容器が必要です。

しかし、このまま上がり続けたら、

そのうち容器代が食材代を食ってしまうんじゃないか。

そんな冗談を言いたくなるくらいです。

いや。

だんだん冗談でもなくなってきました。

お米が下がった。

よし。

鶏肉も落ち着いた。

よしよし。

と思っている横から、

豚肉が上がる。

牛肉が上がる。

容器も上がる。

一つ叩いたと思ったら、別のところから二つ出てくる。

商売版モグラ叩きです。

そんな仕入れ表を眺めていると、

やっぱり思うんです。

「昔は穏やかだったなあ」

と。

数年前は、こんなに頻繁に値上げの案内を見ていなかったような気がします。

「あの頃はよかったなあ」

長年この仕事をしていると、ついついそんなことを思います。

でも。

ここでブルックス・アトキンソンの言葉に戻ります。

では、その私が懐かしんでいる「数年前」。

飲食店はみんな大儲けしていたのでしょうか。

……そんなことはありません。

弁当の販売価格そのものも、今より安かった。

人も今よりたくさん配置していました。

今ほど原価や生産性を細かく見ていなかった部分もあります。

そして何より。

その頃の私はその頃の私で、

「いやあ、最近は商売が厳しいなあ」

と言っていたはずです。

たぶん間違いありません。

少年時代も。

数年前の商売も。

少し似ているのかもしれません。

過ぎ去った夏は、いつも少しだけ美しく見える。

そして今という時代も、

何年か先には、

「あの2026年頃はよかったなあ」

なんて言っているのかもしれません。

……それはそれで、かなり怖いですが(笑)

商売というものは、いつの時代も何かがあります。

材料が高くなれば、その中で何ができるかを考える。

売れなければ、売れるものを考える。

一つ問題が解決したら、また次の問題がやってくる。

70年以上続いてきた弁当屋です。

きっと先代たちも、

「あの頃はよかった」

と言いながら、その時代その時代を乗り越えてきたのでしょう。

夏が終わります。

食材価格のほうは、残念ながら夏と一緒に静かに去ってくれそうにはありません。

それでも、

お米は少し安くなった。

鶏肉も落ち着いた。

だったら、その分で何ができるだろう。

秋には何を作ろう。

「昔はよかった」と懐かしむのも、たまにはいい。

でも商売をしている以上、

やっぱり大切なのは、

「さて、これからどうしようか」

なのだと思います。