※ここから先、映画『ミザリー』のネタバレがあります。まだ観ていない方は、保安官が元気に捜査しているあたりで、いったんお戻りください。
かなり古い映画ですが、先日、『ミザリー』を観ました。
売れっ子作家が熱狂的なファンに監禁される、あの有名な映画です。
主人公を監禁するアニーはもちろん恐ろしいのですが、観ていてもう一つ気になったことがありました。
地元の保安官です。
行方不明になった作家を捜し、わずかな手がかりから少しずつ真相へ近づいていく。
車の行方を調べ、アニーの過去を洗い、ついには彼女の家までたどり着く。
かなり優秀です。
横柄でもない。
汚職もしていない。
奥さんとの会話を見るかぎり、人柄も悪くない。
アメリカ映画の保安官としては、珍しいほど善良です。
これは助かった。
ようやく主人公が救出される。
そう思ったところで、・・・・あーーーーーん!!
役に立たなかったのではありません。
役に立ちすぎたため、退場させられたのです。
考えてみれば、アメリカ映画に登場する保安官は、あまり幸せになりませんね。
悪徳保安官として登場するか。
善良だけれど、真相に近づいたところで退場させられるか。
たまに無能な保安官として現れ、状況をさらに悪化させるか。
おおむね、この三択のような気がします。
なぜ、アメリカ映画の保安官はあないに待遇が悪いのでしょう?
日本の刑事ドラマなら、警察官は基本的に事件を解決する側です。
もちろん悪徳刑事もいますが、組織全体が腐っている作品ばかりではありません。
ところがアメリカ映画の田舎町へ迷い込むと、どうも事情が違います。
町へ入った瞬間から、保安官が怪しい。
目つきが悪い。
ガムをかんでいる。
サングラスを外さない。
こちらが事情を説明しても、最後まで聞かない。
そして、なぜか町の有力者と親戚です。
「この町では、俺が法律だ」
だいたいこんなことを言います。
いや、ガムを嚙んでる保安官は確実に言います(笑)
そもそもアメリカの保安官、つまりシェリフは、多くの場合、郡単位で選挙によって選ばれるそうです。
日本の警察署長とは少し違い、その土地の住民から直接選ばれる、地域権力の象徴でもあります。
住民に支持されれば、長くその座にいられる。
地域との結びつきが強いぶん、頼れる存在にもなりますが、映画の中ではしばしば、
地元の名士。
大地主。
金持ちの一族。
怪しい秘密を抱えた町。
こうしたものと一体化しています。
都会から来た主人公が正しいことを訴えても、
「都会の常識を、この町へ持ち込むな」
とガムを噛みながら言われる(笑)
法を守るはずの保安官が、実は町の秘密を守っているのです。
なるほど。
悪徳保安官は、単なる悪い警察官ではありません。
外から来た人間を拒む、閉鎖的な町そのものなのです。
一方、ミザリーに登場した善良な保安官にも厳しい運命が待っています。
ホラー映画では、主人公がどれだけ危険を訴えても、警察はなかなか信じません。
「窓の外に殺人鬼がいました」
「落ち着いてください」
「友達が地下室へ連れて行かれました」
「お酒を飲んでいますね?」
「犯人は死んだはずなのに、また動きました」
「今日はもう帰って寝なさい」
びっくりするくらい話が進みません。
しかしメタ的な話をすると
「警察がすぐに信じ、パトカー十台で現場を包囲したら、映画もそこで終わってしまいます」
殺人鬼も困ります。
チェーンソーを持ったまま、投降するしかありません。
だから警察には、しばらく無能でいてもらわなければならない。
ところが物語の後半になると、保安官も異変に気づく映画が稀にあります。
ひょんなきっかけで過去の事件を調べる。
誰もいないはずの家で物音を聞く。
地下室の扉を見つける。
ようやく真相へたどり着いた。
しかし、ここでもメタ的な問題が起きます。
保安官が主人公を助けてしまったら、最後に悪党を倒すのが主人公ではなくなってしまうじゃあないか、問題(笑)
主人公は保護され、毛布をかけてもらい、救急車に乗るだけになります。
ーーEndーー
上映時間約1時間。
それでは‥‥映画興行的にはほぼ確実に失敗です(笑)
主人公には、自分の力で試練を乗り越えてもらわなければなりません。
そこで保安官は、真相を発見した直後に退場させられます。
つまり「善良な保安官」は、
「主人公の話は本当だった」
と観客に証明し、
「もう公的な助けは来ない」
という絶望を与え、
悪役の恐ろしさを身をもって示す・・・いわば生贄です。
この三つの仕事を一人でこなして退場します。
あまりにも割に合わない仕事です。
でも映画の脚本には必要不可欠な存在と言えるでしょう。
『ミザリー』の保安官も、あと少しでした。
もう少し慎重に家の中を調べていれば。
先に応援を呼んでいれば。
一人で物音を確認しなければ。
しかし、そんなことを言ってはいけません。
映画の世界では、
「私が一人で見てきます」
と言った時点で、ほぼ殉職が決まっています。
「そこに誰かいるのか?」
・・・・・シーン。
「・・・・気のせいか・・」
ガタッ(物音)
「!?」
ああああああああ!
その物音に気付かなかったふりしてください。
そのまま帰ってくださああああい。
・・・・無理でしょうけど。
今回の映画もほぼこのパターン・・・
せっかくの稀に見る善良な保安官なのにい・・・。残された奥さんのことを考えると(´;ω;`)ウゥゥ
と、物書きの主人公や恐ろしいアニーよりも、
善良な保安官のことが、悲しい印象として残る映画でした。
しかし、田舎の善良な保安官が正義を執行して最後はスカッとする映画無いもんですかね?
誰か教えてください(笑)
